子どもの咬合を考える会
「口腔機能を育むために必要なこと ~生命活動の3S「息育」「食育」「足育」から考える」2017年10月21日
by dent on 11月 13, 2017
平成29年10月21日 子どもの咬合を考える会会員研修会
演題 【口腔機能を育むために必要なこと~生命活動の3S「息育」「食育」「足育」から考える】
講師 西川 岳儀 先生
セミナーレポート 院長:井上華子
井上歯科医院では患者様方の歯に関することだけでなく、お口の中に起こったトラブルの原因を考え、これから元気で健康に生活していくために必要なことについてスタッフ皆で機会があるごとに学んでいます。今回は豊中市でご開業され、足育・息育・食育について取り組んでおられる西川先生より具体的な指導方法について実習も交えてお話を伺いました。
お口の機能としては摂食・咀嚼・嚥下・呼吸が挙げられますが、それらと乳歯列の不正咬合が関連していることは歯科口腔保健の推進に関する法律でも明記されています。いずれの機能も当たり前の事で成長するにつれて勝手に出来るようになっていくことではなく、各成長段階で学習することによって獲得されていくものなのです。そして上手く機能するにはその時の姿勢が大きくかかわっていることをアナトミートレイン(筋筋膜経線)によって説明できます。
「食育(摂食・嚥下機能)」「息育(呼吸)」「足育(姿勢・運動機能)」は常にリンクしており、どれか一つでも崩れると元気や健康から遠ざかってしまいます。正しい機能の獲得は口腔・咬合・顔貌の美しさの向上にとどまらず、心身の生涯にわたる健康維持向上に寄与すると考えられます。
また、残念ながら正しい機能が身につけられずに大人になった場合でも、どのようにするのが正しいのかを知り、態癖に注意し口腔内を整えて舌のトレーニングをしたり、靴下や靴を良いものに変えたり足指のトレーニングをすることによってこれからの元気と健康をつくっていけるので、スタッフと共に患者様へ学んだことをお伝えしていきたいと思いました。
井上歯科医院 東岡 友紀(歯科衛生士)
この研修会では歯科だからこそできる呼吸、嚥下、姿勢の異常を子供のうちから気付き、子供の健全な成長をサポートしていこうというお話について実習を交えて学ばせていただきました。
まず足という土台をしっかりさせることによってお口の健康を守るということを教えていただきました。現代に生きる人は女性ならハイヒールのように小さい靴、男性なら革靴という足に合わない靴を履くことが多いので、そうした靴を履くことにより、徐々に足が壊れていくそうです。そうして壊れた足を使って歩くことによって、姿勢を崩してしまいお口の健康だけではなく、呼吸や嚥下をすることに至っても、様々な障害が生まれていくことを教えていただきました。驚くことに、早ければ新生児期の抱っこの仕方が足を壊す原因となるそうです。そこで、正しい赤ちゃんの仕方や抱っこ紐の使い方を教えていただきました。
また新生児からの哺乳の仕方がうまくいかないと、良い発育に繋がらないそうです。特に新生児期は、舌の力が弱くしっかり発育できていないと口呼吸に繋がり、横向きやうつ伏せではないと眠れなくなります。正確な哺乳行動で舌の力をつけないと、結果大人になっても口呼吸やうつ伏せで寝る癖が中々治らないといったことになります。
次に離乳食指導のお話があり、西川歯科医院で行われている、赤ちゃん歯科での離乳食指導の様子を見させていただきました。第一に抱っこの仕方や哺乳が大事ではありますが、その後の離乳期も舌や口唇の筋肉を鍛えるのでとても大事です。
赤ちゃん歯科では、よく育児本で見られるような月齢に沿った離乳食指導ではなく、歯科の観点から乳歯の生え方に沿った指導をされていました。着目するのは口の動かせ方であり、その子にとっての適度な硬さのものが与えられているのか、大きさはどうなのか、ちょっとした仕草の異常も見逃さず、お母さんに的確な指導をされていました。そうした指導をしてもらえると、お母さんにとってとても心強く、安心して育児に取り組んでいただけると思います。そして継続して来院していただくことにより、健全な発育につながりますので、将来的にみても良い歯列と噛み合わせを獲得できるのだろうと思います。当院に来られる妊婦さんや乳児期の赤ちゃんを持つお母さんに実際お話を聞いてみてもそのような知識はお持ちではなく、やはり世間一般には知られていないのだと残念に思うことが多いです。
間違った息育、食育、足育を正していくのは早ければ早いほど容易にできるようです。大人になってからでは、お口の健康を取り戻す事は難しく、私たちがお手伝いできる事も少ないのです。
お母さん方に歯科だからこそできる正しい知識を伝えていくため、深く学んでいきたいと思いました。
井上歯科医院 赤﨑 愛美(歯科助手)
今回の勉強会では普段の生活で大切な「息育・食育・足育」から成る3Sの中でも、「足育」に特に着目し印象に残ったお話でした。
爪先の尖った指が窮屈な靴や自分の足に合っていない靴を履き慢性的な圧迫がかかり続けると、外反母趾や内反小趾など足や足の指の変形に繋がります。そういった状態になるのは靴を履き始めてからだと思っていましたが、生まれて間もない0歳から足の指が変形するということを聞いてとても驚きました。怪我や寒さなどから守るために靴下を履かせてしまうのが新生児期から足の指の変形を助長させてしまうのです。
近年では、早産や低体重出産が多くみられます。そういった場合、身体機能が通常出産で生まれてきた子どもよりも遅れてしまうことが稀にあり、身体機能の低下とともに摂食機能の低下にも繋がってしまいます。母親のお腹の中で1週でも長く育てることが生まれるまでの最初の土台作りになります。
生まれてからも土台作りとして足育は重要です。外出するとお母さんが抱っこ紐で子どもを抱いているところをよく見かけますが、その中で寝ているときに口が開いている子どもが多いです。口が開いているということは口呼吸をしているので外気を直接身体の中に取り込んでいて、舌が口蓋につくという習慣が身に付かないということになります。口呼吸が出来ないと浅い呼吸になり、自分で座れるようになった時に猫背になり姿勢の歪みに繋がってしまいます。それを予防するために足育をするのです。
抱っこ紐を使うときは母親のポジショニングがとても重要で、『М字抱っこ』が良いと教えていただきました。大体の方は赤ちゃんの顔が胸に来ている状態が多いですが、赤ちゃんのおでこにキスできる高さがベストとされており、ちょうど母親の首あたりに顔がくるようになります。足は骨盤ではなくウエストの位置に。そして赤ちゃんの股がおへそにくるように意識します。そうなると母親と赤ちゃんの接触面積が広くなるので口唇が自然と閉じる姿勢になります。足の形もМ字になり、足の指や足自体にも力が入れやすい態勢です。新生児の時期に、寝かせる時もМ字の形を意識してお尻より膝が上にくるようにして寝かせます。そのようにして基本的な呼吸の仕方を小さな頃から促すことが大事だと知りました。
人は1日に約2万回呼吸をします。幼児はその1.25倍、乳児は2倍、新生児は3倍です。呼吸が上手に出来ないと、食事の時にきちんと嚥下が出来なくなります。その悪循環を阻止する為には土台作りとして、足育をきちんと行うことが大切だと思いました。
私にはまだ子どもがいないですが、将来に子どもが出来た時にとても役立つ情報ばかりを得られたので、この情報を自分だけに留めるのではなく、妊婦健診で来院された方や、出産して間もない患者様がいたら伝えていけたらと思いました。
井上歯科医院 吉田 光代(歯科助手)
「食育」と言う言葉は、近頃よくテレビや新聞などで目にするようになりましたが、その「食育」とは農林水産省のHPに掲載している「健全な食生活を実現することができる人間を育てること」を基本に栄養バランスなどの内容でした。今回の西川先生のお話しの中の「食育」は噛むことの大切さや、子供の口腔内の成長にあった食事や食事の時の姿勢などで、歯科の観点からの「食育」は生きていく上で健全な食生活を実現するにはとても重要な内容でした。耳慣れない「息育」のお話しでは、口呼吸の弊害や鼻呼吸の重要性を改めて学びました。虫歯や歯周病・歯列にも影響してくる以外にも、いろいろな病気に影響してしまう口呼吸の改善はやはり「あいうべ体操」でした。そして「足育」のお話しでは、足指の異常からおこる姿勢のゆがみや、口腔内に与える影響もたくさんあることを学び、足指を広げるストレッチも教えていただきました。口と足は遠く関係性などないと思っていた私でしたが、この3Sの中で一番興味を持った内容であり運動機能の低下や摂食機能の低下などの原因に繋がっていく「足元」の大切さ、そして西川先生がおっしゃっていた「立派な家を建てるには土台が一番大事」と言う言葉は歯科治療だけでなく生きていく上で何事にも大事だと感じ、「なぜ?」を考え原因を考える大切さを教わりました。
今後、たくさんの患者様に口腔機能への関心をもっていただけるよう、そして教わったことを伝えていけるスタッフでありたいと思います。